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大阪地方裁判所岸和田支部 昭和47年(ヨ)19号 決定

和泉町上代町町会長

申請人

清水三右衛門

外三八名

代理人

荒木宏

平山正和

ほか三名

和泉市右代表者市長

被申請人

藤木秀夫

代理人

俵正市

ほか七名

仮処分決定

右当事者間の昭和四七年(ヨ)第一九号仮処分申請事件について、当裁判所は申請人の申請を理由があると認めたので申請人に保証として金三〇万円を供託させ次のように決定する。

主文

一、被申請人は別紙物件目録記載の火葬場構内に対する整地工事を中止しなければならず、昭和四八年三月三一日までしてはならない。

二、被申請人は別紙物件目録記載の火葬場を昭和四八年三月三一日まで使用操業してはならない。

理由

(本案前の主張について)

一、本件において都市計画法二一条二項、一九条一項にもとづく決定から火葬場の建築行為の全体あるいは使用操業を含めてこれを行政事件訴訟法三条にいう「公権力の行使に当る行為」であると解するのが方向としては妥当であるかもしれない。しかし従来より公共用施設の設置行為はその設置のための決定とその建築のための事実行為を区別して後者についてこれを「公権力の行使に当る行為」には該当しないと解されていたのである。また右の「公権力の行使に当る行為」とする見解は行政訴訟を認めて訴訟上の救済をはかることを企図された理論であるからこれを逆用して本件を却下することは妥当ではないと考える。

二、疎甲四〇号証、疎乙四〇号証によれば、申請人等は別紙の本件火葬場建設地から約五〇〇ないし六〇〇メートル付近に居住していることが疎明されるが、本件申請は将来の被害を予測してその差止を求めるものであり、かつその被害の及ぶ範囲が広く、それによる被害者も多数人が予測されるのであるから、個人個人のうける被害の程度を個々的に判断することは容易でなく、一応地域的な判断をもつてこれにかえざるをえないし、仮処分にあつてはこれもやむをえないものと解する。したがつて、和泉市上代町に居住する申請人等にはその適格があると考える。

(本案について)

一、本件疎明資料によれば、次の事実が認められる。

1  被申請人は別紙目録の土地に火葬場を建築しており、現在は火葬場構内の整備と進入道路の工事を残すのみとなつている。火葬場は公園にしてイメージ・アップをはかる計画であり、円孤型火葬炉をすえつけ、これは自動扉で、白灯油を使用し、悪臭防止のための再燃焼装置を、防じん装置としてはサイクロンを各々採用し、またエアウィックをつけて臭いを変化させ、煙突からの悪臭を防止しようとしており、このような設備は日本環境衛生センターも肯認している設備である。なお、煙突の高さは一五メートルである。

しかし、このような市の努力にもかかわらず、右設備によつて、悪臭や、粉じんが、完全に防止できるとする確証は現在のところない。(特に悪臭については、計数上、理論上は九〇パーセント以上の安全度が予定されるとしても、ウェバー・フエヒナーの法則によれば、あと一パーセントが大切なのであり、臭いを感じる人にも個性があること、火葬場は死体処理場であることを考えれば、その防止についての確証はもてない。)

2  したがつて、本件火葬場が大野池に突きでた半島状の窪地に位置し、そこでの煙突の高さが一五メートルでも、上代町からの高さは七ないし八メートルしかないので、西南西の風にのつて悪臭、粉じんが運ばれる危険がある。

3  また、大野池は本来はかんがい用の池であるが、水が不足した時などには大野池から光明池に取水され、これが泉大津、和泉、高石三市の飲料水と使用されているところ、本件火葬場の雨水はすべて大野池に流れ込むようになつている。

4 申請人等の居住する上代町は本件火葬場より五〇〇ないし六〇〇メートルの距離にあるが、本件火葬場の反対側、約三〇〇メートルの地点には、和泉市のゴミ焼却場、泉大津、和泉、高石三市共同のし尿処理場があり、現在まで、上代町は、すす・ちりや悪臭による被害を受けているので、火葬場に公害の危険がある以上右三施設により、はさみうちにあうとして申請人は不安にかられている。

5  ところが、被申請人は上代町住民に対する説明会を本件位置決定後の昭和四五年四月二九日、八月五日、昭和四六年一月七日、および三月一四日の四回開いたのみで、他には民生部長が町会長宅を数回訪問しているのみである。むしろ、反対陳情の回数が多い。申請人が絶対反対であつたにしろ、現在まで公害防止装置についての説明も、公害監視体制についての話し合いも、また補償措置についての話し合いもなされていない。(疎甲六号証によれば本件火葬場の施設運営についてもまだ改良の余地があると思われる。)そのような状況で本件建築工事に着工されたものである。

6  ところで、被申請人において本件土地に火葬場の設置が決められた主な理由は、山間部に設置するには造成費、およびそこに至る道路の工事費が多額に要することと本件土地が認定道路に接続すること、およびそれにより市民が利用しやすいことの三点である。

したがつて、和泉市山間部や中央部については現地に臨場した程度しか検討がなされていない。なお附近に人家が密集していないことも考慮に入れているが、本件程度で十分と考えていたものである。

7  現在和泉市には市立新開斉場、幸火葬場があり稼働しているが、新開斉場では需要に応じきれず、幸火葬場も現在稼働中であとしばらくは利用できるが近く一〇〇〇万円を要する大改修を必要とする状況にある。一部市民は民営火葬場を利用しているが、市営葬儀の一〇倍余の費用を要している、そのため市民の本件火葬場利用に対する要求は強いと考えられる。

8  なお、市はこれまで本件火葬場設置のため、約二億一〇〇〇万円を投じている。

以上の事実が認められる。

二、他方大阪府下の他市の状況を見ると、疎乙第一号証によればそのほとんどの市が、火葬場開設時には住宅のない場所に設置され、現在はその周辺に住宅が建ち苦情を申し込まれる所もあるという状況であること、現在でも飯盛霊園・岸和田市・柏原市・高槻市は住宅のない場所に建てられていることが認められる。

三、本件火葬場について悪臭・粉じん防止についての確証が得られないこと、大野池に雨水が落ちること、既にゴミ処理場、し尿処理場による環境汚染が存在することを併せ考えれば、申請人等の生命・身体に対する侵害があるものと考えざるを得ない。そして、右一の4ないし8、および二の諸点や和泉市には開かれていない山間部が現存していることを比較考量すれば、主文に掲記程度の仮処分はやむをえず、その間に被申請人は申請人等に対し十分の説明をおこない、両当事者間で前記5の諸点等について十分の話し合い検討がおこなわれることを期待する。(北谷健一)

答弁書

第一、本案前の答弁

一、申請の趣旨に対する答弁

本件申請はいずれも却下する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

との裁判を求める。

二、答弁の理由

(一) 本件火葬場建築工事ならびに、その火葬場の使用操業は、行政事件訴訟法第四四条の「公権力の行使に当たる行為」に該当し、同条により民事訴訟法に規定する仮処分をすることができないから本件申請は不適法であり却下されるべきである。

申請人らが差止を求めている本件火葬場建築工事は、都市計画法第一九条第一項に基づき、和泉都市計画第一号として被申請人和泉市が昭和四六年三月二三日付大阪府指令土計第六六五号で大阪府知事の承認を受け決定し同年六月一〇日頃より施行し、昭和四七年二月末には完成し、同年三月中旬より操業開始の予定である。

行政事件訴訟法第四四条の「行政庁の公権力の行使に当たる行為」とは、法が認めた優越的な地位に基づき、行政庁が一定の行政目的を達成するため法の執行としてなす権力的意思活動を指し、都市計画法第二五条ないし同法第二八条の諸規定に徴しても、本件建築工事が行政庁の「公権力の行使に当たる」行為に該当することは明らかである。

さらに、公権力の行使に当たる「行為」の中に、本件工事のごとき事実行為が含まれることは、行政事件訴訟法第四四条に関する立法の経過、および行政不服審査法第二条の規定に徴して明らかなところである。(参照、大津地裁判決昭和四〇年(ヨ)第三六号)。

従つて、本件申請は不適法であるから直ちに却下されるべきである。

(二) 申請人らには当事者適格がなく、本件申請はその訴訟要件を欠くから直ちに却下されるべきである。

すなわち、当事者適格に関する申請人らの主張によれば、未だ分明ではないが、申請人らは和泉市上代町の住民であり、同町は本件火葬場の至近距離に位置し、同火葬場の操業により生活環境が破壊される蓋然性がある場所に居住しているというのにある。

いわゆる公害訴訟における差止請求訴訟において、予測される加害行為と同じく予測される被害、およびそれらの因果関係はいずれも申請人らが立証責任を負うと解すべきところ、本件申請では、予測される加害行為(汚染源)として、極めて抽象的に大気汚染・悪臭被害が発生すると主張するのみで具体的な主張はなく、予測される被害としても前同様であり、その因果関係(汚染経路)についても具体的主張は何もない。申請人らが本件申請における当事者適格を主張するのなら、右のいずれについても具体的主張をなすべきであり、申請人らと本件火葬場との位置関係さえも明確にされていない本件においては、申請人らは本件申請における当事者適格はなく、従つて、直ちに却下されるべきである。

第二、本案に対する答弁

一、申請の趣旨に対する答弁

本件申請をいずれも棄却する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

との裁判を求める。

二、申請の理由に対する答弁

(一) 第一、(1)中、和泉市が昭和四六年三月三〇日付で本件火葬場に係る都市計画の告示をなしたこと、本件火葬場の建設に関しては上代町の一部に反対運動があつたこと、和泉市が昭和四六年六月一〇日頃本件火葬場の建築工事に着工したこと、および、その工事は昭和四七年二月下旬には完成し、同年三月中旬操業開始の予定であることは認め、その余は不知。

(二) 第一、(2)中、和泉市上代町の住民の一部が本件火葬場の建設に反対していたことは認め、その余は争う。

(三) 第二、(一)、①、a、中、墓地埋葬等に関する法律第一条の規定が主張のとおりであること(但し、「宗教感情に適合し」は、「宗教的感情に適合し」の誤り)、および、大阪府墓地、埋葬等に関する法律施行細則第四条の規定が主張のとおりであることは認め、その余は不知。

(四) 第二、(一)、①、b、中、本件火葬場の所在地が和泉市小野町甲一五番三であること、および、それは大野池に突出た半島に位置していることは認め、その余は争う。

(五) 第二、(一)、①、、はすべて争う。

(六) 第二(一)、①、中、本件火葬場西側に日本住宅公団の鶴山台団地が建築中であり、既に入居者もいることは認め、その余は争う。

(七) 第二、(一)、②中、上代町のほぼ北方にじんあい焼却場があり現在稼働中であることは認め、その余は争う。

(八) 第二、(二)、①、中、本件火葬場の位置決定が都市計画法に基づいていることは認め、その余は争う。

(九) 第二、(二)、②、中、和泉市が昭和四五年四月二八日、上代町住民を対象に説明会を行ない本件火葬場建設計画を明らかにしたこと、上代町住民の一部が本件火葬場建設に反対して陳情をくり返したこと、昭和四六年二月一日付の和泉衛第三六号で本件火葬場に関する都市計画決定について大阪府知事の承認を求める申請をなし、同年三月二三日その承認を受けたことは認め、その余は争う。

(十) 第二、(三)、①、中、本件火葬場には火葬炉七基および汚物を焼却処理するものであることは認め、その余は争う。

(十一) 第二、(三)、②、中、本件火葬場には脱臭装置として再燃焼方式を採用していること、炉体内の断熱扉には炉と極少の間隙があること、七基の各炉と中央煙道を結ぶ分岐煙道に設けられた遮断板にも極少の間隙があること、炉の設置された部屋の換気は壁面換気扇により直接外気と交換されるようになつていること、岸和田市の流木火葬場は本件火葬場とほぼ同じ構造であること、付近で作業中の住民が流木火葬場になぐりこんだことがあつたことは認めその余は争う。

(十二) 第二、(三)、③、中、本件火葬場には防じん装置としてサイクロンを採用していることは認め、その余は争う。

(十三) 第二、(三)、④は争う。

(十四) 第二、(三)、⑤、中、岸和田市流木火葬場が本件火葬場とほぼ同一の構造であること、同火葬場が昭和四六年八月二〇日より操業を開始したことは認め、その余は不知。

(十五) 第二、(三)、⑤、は争う。四条畷市飯盛霊園は人里離れたいわゆる山奥にある訳ではなく、わずか四〇〇〜五〇〇メートルの地点に密集した人家がある場所に設置されている。

(十六) 第三、はすべて争う。

第三、被申請人の主張

一、本件火葬場の必要性

(一) 従来の施設の老朽化と処理能力の不足

和泉市においては、昭和三一年九月一町六ケ村が統合による市制施行に伴ない、火葬場としては旧和泉町が昭和二九年頃設置した町営火葬場を市営新開斎場として市民の便益に供してきた。

昭和三五年三月一七日、和泉市は旧泉北郡八坂町、同郡信太村を吸収合併し、人口も増え、現在では一〇万名余を数えている。

しかし、市営新開斎場は、わずか薪炉三基のため、その処理能力に限界があり、焼却死体が重なつたときには日延べ執行の受付けや他市への依頼等によつて辛うじてその苦況を脱して来たが、気温の上昇する夏期にあつては日延べ執行が困難となり、その処理能力の不足は致命的となりつつある。また、昭和二九年築造されたものであるため老朽化も著しく、暫々補修に追われている。

(二) 観音寺町との約束と信太村らの吸収合併の条件

(1) 昭和三一年九月和泉市の発足に伴ない、旧和泉町設置の火葬場を市営に移管するに際し、昭和三二年一二月二六日、和泉市長と観音寺町々内会長との間に次の約束があつた。

「二、将来隣接市町村と大同合併したときは火葬場は観音寺町以外の地に移転する。但三年間の猶予期間を置きこの期間中の使用は現在の和泉市区域内の住民に限定する。昭和三十二年から十年経過して合併が実現しない時は観音寺町以外の地に一ケ所設置する。」

昭和三五年八月一日和泉市は旧泉北郡八坂町、同郡信太村を吸収合併し右条項前段に該当することにより昭和三八年八月二日には右移転期限が到来していた。

(2) 昭和三五年八月一日、和泉市は旧泉北郡八坂町、同郡信太村を吸収合併し、その時の合併協定書第一六項には「現在の和泉市営火葬場は新市域の住民は使用しないものとし、将来公園墓地と共に新火葬場を信太地区に設置し完成の暁は現市営火葬場はこれを廃止するものとする」と協定されていた。

右により、旧八坂町(現、幸地区)、は旧八坂町の設置した古い薪炉を使用し、旧信太村(現、信太地区)は堺市内の民営火葬場を使用し、両地区の住民と他地区の住民との間に差別が設けられ、民営の火葬場を使用すれば市営葬儀に比べて一〇倍以上の費用がかかること等により新しい火葬場の設置が強く要望されていた。

(3) 人口の急激な増加と火葬場新設の必要性

和泉市は、地域産業の著しい発展とベッドタウンとしての宅地造成によつて住宅が激増し、それに伴い人口増加が著しく、将来の推定人口についても、一五年後には約二倍、二〇年後には約三倍が見込まれている。現行の市立新開斎場の既に限界に達している処理能力よりすれば新しい火葬場の設置が焦眉の急であつた。

(4) 右の次第で、和泉市は、遠く昭和三九年当時より新しい火葬場の適地を物色していたのであるが、嫌忌施設としての火葬場の性格から仲々その適地が見つからなかつたが、昭和四四年頃より信太山演習地内の一角の譲受を目指して対防衛庁交渉に入つたのである。

二、本件火葬場設置場所の妥当性

(一) 昭和三五年三月一七日、和泉市と旧八坂町、信太村との合併協定書第一六項には、新火葬場を信太地区に設置すると協定されていた。右協定書には、信太村関係者として、信太村長、村議会議長、村議会合併委員会委員長および村議会合併運営促進委員会委員長が各署名押印していた。

(二) 右設置場所は、陸上自衛隊信太山駐とん部隊演習場の北西部に位置し、その囲りは大野池によつて囲まれ、約五〇〇メートル北部に上代町の集落があり、約三〇〇メートル西北部に住宅公団の造成地があるが、いずれも、大野池、溜池、湿田、畑地などによつて右場所より遮断され、他より全く孤立した場所である。

右場所は、西北部に位置する住宅公団造成地から比較的見通しがきく(これとて、殆んど見通せないように設計されている)他は、北部、東部、南部のいずれの方向よりするも極めて見通しが悪いか若しくは見通しがきかない場所であつて、嫌忌施設の立地条件としては最適である。

また、囲りが自衛隊の演習地であるということは、自衛隊が存続する限り、半永久的に近隣に人家が建てられる可能性はない。

(三) 右設置場所は、和泉市住民の約七〇%が住む和泉市北部地区に位置し、火葬場への搬送も便利であり、和泉市南部地区のいわゆる山奥に設置された場合に比べて市民の負担が著しく軽減される。

和泉市においては、旧来の風習により霊柩車による柩の搬入の際、葬儀参加者が最低一〇名、多くは一〇〇名も随行する例であり、骨上げの時もその半数程が参集する。それらはいずれも市民の負担であり、バスないしタクシーをチャーターしている。

(四) 和泉市南部地区への設置は、搬送道路の点で困難な点が存する。

現行設置場所は、信太山演習地内に網の目のように認定市道が走り、搬送に極めて便利である。

ところが、和泉市南部地区のいわゆる山奥に火葬場を設置した場合は、和泉市内を走る幅員六〜八メートルの府道泉大津・粉河線、同じく府道父鬼・和気線よりの引込み道路が必要となり、その道路建設費用として数億円にのぼる額が見込まれるのである。

三、本件火葬場設置場所選定手続の妥当性

(一) 昭和四四年頃より本件火葬場設置場所について、信太山演習地の一角と市有地との交換をなすべく、対防衛庁交渉を開始したが、昭和四五年四月四日、大蔵省理財局国有財産第一課より交換地位置決定の回答を受け、早速、住民への周知徹底を中心とする各種手続を開始した。

(二) 右手続の過程は次のとおりである。

(1) 昭和四五年四月一二日、和泉市公園墓地火葬場設置委員会(特別委員会)開催。

設置場所について、全員一致の了承を得る。

(2) 同月二九日、火葬場設置について、第一回上代町説明会を地元会場で開催。

上代町市民一二名出席、市関係者、市長、民生部長、関係課長出席。

上代町民は、「公園墓地ならばよいが、火葬場は反対する。」「信太校区の中で上代町にもつてくるとは何事だ。」として、設置場所について反対した。

(3) 同年五月八日、住宅公団鶴山台開発事務所長来庁し、設置場所について明示するとともに、建設着手前の事前打合せを回答。

(4) 同年五月一二日、和泉市議会墓地特設委員会々員および産業衛生委員会々員、先進都市の霊園見学。

(5) 同月一八日、信太校区(旧信太村)の町会長を対象として信太農協において説明会開催。

(6) 同年六月三日、信太校区の町会長の要望で、町会長全員で姫路名古山霊園視察。火葬場設置の了解を得る。但し、上代町長は欠席。

(7) 同月一二日、墓地火葬場特設委員会開催。

(8) 同月二七日、産業衛生委員会開催。

(9) 同年八月五日、上代町の説明会。上代町役員出席。市側議会常任委員会委員長、議会正副議長、公園墓地火葬場設置委員会委員長、市長、助役および関係部課長出席。

(10) 同年一一月一六日、墓地火葬場特設委員会開催。

(11) 同月二一日、産業衛生委員会開催。

(12) 同年一二月九日、墓地火葬場特設委員会開催。

(13) 昭和四六年一月七日、火葬場設計について説明のため上代町会長宅に助役・部長・課長が出向く。

(14) 同年二月六日、和泉市都市計画審議会開催。火葬場建設利用計画書による指定について決定。

(15) 同月二四日、墓地火葬場設置委員会および産業衛生委員会合同委員会開く。

(16) 同年三月一日、信太校区町会長説明会。火葬場建設利用計画書配布。

(17) 同月一四日、上代町説明会。上代町側一三名出席。市側、市長、助役、関係部課長出席。

(三) 昭和四六年度七月号の「広報いずみ」により市営火葬場建設の周知徹底をはかり、同年一〇月には「広報いずみ」九月号において新霊園の名称募集をなし、一八三通の応募者中、最も応募の多かつた「和泉市立いずみ霊園」とその名称を決定した。

(四) 昭和四六年二月一日付和泉衛第三六号で、和泉市長は都市計画法第一九条第一項により大阪府知事宛に和泉都市計画火葬場の決定について、その承認方の申請をなし、同年三月三日大阪府知事は、都市計画法第一九条第二項により大阪府都市計画地方審議会に付議し、大阪府知事は、右議を経て、同月二三日付大阪府指令土計第六六五号により右承認をなした。

(五) 昭和四六年三月三〇日付和泉市告示第一四号において、和泉市長は、都市計画法第二〇条第一項により右の都市計画が決定した旨を告示し、同年四月二二日、建設大臣並びに大阪府知事宛に同法第一四条第一項に規定する関係図書の写しを送付した。

(六) 右に先だち、昭和四六年三月三日、和泉市長は、都市計画法第一七条第一項により右都市計画案を公告し、同月四日から同月一八日まで公衆の縦覧に供した。

四、環境保全措置の万全性

(一) 火葬場という嫌忌施設に鑑み、それの与える暗い陰気なムードを払拭するため、その建物の構造に画期的な斬新なデザインを導入し、カラーも白で統一し、展望台や散歩道を設ける等して公園施設としてのイメージ作りに努力して来た。

また、設置場所西北部の住宅公団鶴山台団地よりの観望も、施設の西北部全体に約七メートルの小山を設け、その上に植林し、煙突の一部を除いては殆んど見えないように設計した。

(二) 火葬炉の設置は、火葬炉に関しては関西地区では殆んど唯一の業者であり、昭和三八年以来、既に五〇〇炉以上の火葬炉を手がけてきた大阪市浪速区幸町通二丁目二五番地所在昭栄建設株式会社に委せた。

(三) 防じん装置は、乾式サイクロンを採用し、人体より出る一三一五ミクロンの炭素その他の浮遊物質の集じんに努め、その除去率は七〇〜九〇パーセントである。

(四) 更に、脱臭装置としては、再燃焼方式を採用し、乾式サイクロンを経由した煙を再び八〇〇度から九〇〇度に高めて再燃焼させて臭いを抜き、その燃焼率は八〇〜九〇パーセントである。

右のようにして、最終には九四〜九九パーセントまが脱臭するように努めた。

(五) 燃料としては、重油は一切使用せず、炉および再燃装置とも重油の二倍のコストのする灯油(白灯油)を使用し、重油燃焼による公害発生のおそれを防いだ。両方共灯油を使用するのは府下では本件火葬場が始めてであり、日本国中では富山の火葬場も同様に灯油を使用し、都下では二、三箇所使用されている程度である。右は、和泉市関係者が、数度富山の火葬場を視察した成果である。

(六) 装置内の排気も、自然排気にたよらず、排風気を使用した機械排気に依つているため、臭気が漏洩するおそれは全くない。

(七) 排水(装置からの排水はないが、建物清掃用の排水がある)も、三〇トンの貯水そうを施設内に設置し、施設内の排水は一切その貯水そうに入れられ、他の場所に搬出されるようにした。

(八) 右の如く、こと環境保全に関しては、和泉市としては、日本国内の火葬場の先進施設を幾度となく視察し、その利点を全て採用し、現在では日本一の施設であると自負している程であり、一地方公共団体たる和泉市としても、その財政能力を超える程の設備をしたつもりである。

もし、本件火葬場が環境破壊の理由でその工事差止、操業中止を命令されんか、全国の火葬場施設は殆んどその操業が中止されなければならないであろう。

第四申請人らの主張に対する反論

一、申請人らは、本件火葬場の位置が、墓地埋葬等に関する法律第一条に違反するとして、種々の理由を列挙している。

(一) まず、右法律第一条は、同法律の目的を規定したものであつて、基本的に同法律の解釈原理ならびに行政指針にはなりえても、具体的な行政行為が直接に同条に違反する問題は生ずる余地がない。

また、たとえ、右余地があるにしても、本件火葬場の位置が同条に違反するとの主張は全く理由がない。

(二) まず、本件火葬場の囲りをかこむ大野池であるが、同池は、かんがい用の池であり、申請人ら主張のように本来の上水水源池ではない。

たしかに、和泉、高石、泉大津のいわゆる泉北三市が一部同池より取水した上水を供給されていることは事実であるがそれとして、勿論直接飲用に供している訳ではなく、十分の浄化装置を経てのことである。

また、本件火葬場設置により同池の水汚染が生じないよう貯水そうの設置などで十分の配慮をしている。そのため、同池を管理している光明池土地改良区の了解も得ており、同土地改良区より大野池の水の供給を受けている泉北水道企業団(泉北三市の簡易水道を管掌する)の了解も昭和四六年九月六日得ている。

なお、付言すれば、泉北三市の上水道は府営水道と簡易水道により供給され、府営水道が主で簡易水道はほぼ二五パーセントを供給するにすぎない。簡易水道の供給池も主に光明池からであり大野池からの取水は約二〇パーセントにすぎない。

(三) 申請人らは、本件火葬場の位置が水源池たる大野池のすぐそばであることを理由として、大阪府墓地、埋葬等に関する法律施行規則第四条違反を主張するが如きであるが、同条はあくまで許可庁に対する許可基準であつて、本件火葬場は都市計画法第一九条第一項により火葬場として大阪府知事の承認を得ている。

(四) 申請人らは、本件火葬場が申請人らの住家より二〇〇〜三〇〇メートルの至近距離にあると主張するが、右施設よりすれば、申請人らのうち最も近いと思われる清水武雄氏の家より約五〇〇メートルは離れている。

事実、疎甲第一三号証の三によつても、「上代町民の居住地から四百米余」と記述されており、右は二〇〇〜三〇〇メートルの主張が著しい誇張であることを示している。

また、疎乙第二号証の一の写真は、申請人清水武雄氏の家の附近から撮影したものであり、そこからは本件火葬場は殆んど見通せず、同所より約三〇メートル南方の樹木等の間からようやく遠くに発見しえる程である(疎乙第二号証の二、同号証の三)。

(五) 本件火葬場約三〇〇メートル西北方向に日本住宅公団鶴山台団地が建設されつつあるが、日本住宅公団には既に了解を得ており、また嫌忌施設としての火葬場の性格を考えて本件火葬場設置場所西北部に約七メートルの小山を設けその上に樹林し、建物自体は全く見通せないように設計し、その手前(小山より団地側)には公園風の散歩道と藤棚を設ける等して、団地住民の感情を考慮の上十分配慮した。

二、申請人らは本件火葬場建設手続の違法を主張するが、そのいずれもが事実に反する。

(一) 申請人らは、和泉市が住民に事前に知らせずに火葬場の位置を決定したと主張する。

しかし、火葬場を信太地区に設置することは、昭和三五年三月一七日、和泉市と旧八坂町、信太村の合併の時にその合併協定条項第一六項にうたわれており、突然、信太地区に設置すると決定した訳ではない。

また、信太地区といつても、当然防衛庁信太山演習地内が予定されていたのであり、同地区は国有財産ということで一方的に和泉市においてその位置の選択ができる訳ではなく、和泉市市有地との交換という形で同演習地内の希望地を申し入れていたのであるが、最終的に大蔵省より現在地との回答を受けたのが昭和四五年四月四日であつた。右によりすぐさま諸手続をとるとともに、同月二九日上代町の説明会に入つたのであり、上代町独自の説明会は右を含めて前後三回、上代町会長を含めた信太校区町会長の説明会ないし視察が前後三回、上代町会長に対する説明が一回なされており、都市計画法第一六条の「住民の意見を反映させるための必要な措置」を講じている。申請人らは「公聴会の開催」がなかつたと主張するが、同条は必ずしも「公聴会の開催」を絶対の要件とはしていず、説明会等の開催で十分その趣旨に適するものである。

また、都市計画法第一七条第一項に基づき、和泉市は昭和四六年三月三日、同月四日より二週間本件火葬場に係る都市計画の案を公衆の縦覧に供したこと前述のとおりである。

(二) また、本件土地を火葬場用地として使用できるよう住居専用地域(市街化調整区域の誤りか)に変更する等の操作を行なつたと主張する。

しかし、市街化調整区域に関する都市計画の決定は都道府県知事の権限とされ(都市計画法第一五条第一項第一号)、和泉市の市街化区域および市街化調整区域に関する都市計画の決定も、昭和四五年八月一七日、大阪府告示第一二三〇号で大阪府知事によりなされたものである。(疎乙第二五号証参照)。

(三) 和泉市は、本件火葬場設置に関する上代町の反対にもかかわらずその建設を強行したと主張する。

たしかに、反対する上代町民の一部の目には、本件火葬場設置に関する和泉市の措置が「強行」と映つたかもしれぬが和泉市としては、上代町に対する説明会を始め、尽すべき手段は全て尽しており、また、全市民はいうに及ばず、上代町民の一部を限く信太校区の他の町会長の了解・要望も得て建設に踏み切つたのであり、決して、反対する市民の声を無視した訳ではない。

ただ、上代町民の一部の反対の声は、当初より一貫して設置場所の変更のみであり、その意味ではそれ迄の経緯よりみてその要望を生かすことは難かしかつた。和泉市としては、上代町の環境整備等の妥協案を呈示したことがあつたが、右の反対の声のためにその案は一蹴されてしまつた。

(四) 和泉市が、上代町の住民の一部の反対思意を無視し「欺罔手段」をも使つて既成事実を作つたと主張するが、「欺罔手段」とはいかなる手段を指すのか明確にされたい。

(五) また、大阪府知事の承認に際し、「住民の反対の意思が弱い」と言つたとすれば、それがなぜ「詐言」(?)になるのか明確にされたい。

三、第二、(三)に対して、

(一) 同項の①は重油を燃料として使用することを前提としており、和泉市においては、本件火葬場の燃料としては灯油(それも性能の一段と高い白灯油)の使用が予定されており、従つて、同項の①の主張はその前提を欠き理由がない。

(二) 同項の②における燃焼初期における断熱扉等から放出したガスによる悪臭の主張については、設計上作業室内にガスが漏れることのないように配慮されており申請人らの主張は理由がない。

すなわち、申請人らの主張は炉体内の通風(排風)につき自然排気を前提としているが、本件装置は排風機による機械排気(強制通風方式)を採用しているので、申請人らの主張はまずその前提を欠く。

また、断熱扉ならびに遮断板の間隙も、断熱扉については締付金具により、遮断板は地下方式の採用と蓋の取付により外部へのガスの放出の防止がはかられ、炉体内の圧力は炉外の圧力よりも低くなるように設計されており、二重三重の防止装置が施されている。

右は、本件火葬場と同一の装置を採用している岸和田市流木火葬場において、操業開始以来半年余経過するも作業室内の壁は依然として白くて清潔そのものであり、同火葬場の職員も作業室内および室外とも悪臭がしたことはないと明言している(疎乙第一六号証)。

(三) 申請人が岸和田市の流木火葬場の悪臭被害の例としてあげている付近住民のなぐりこみというのも、真相は、申請人ら主張のようなものではない。

すなわち、流木火葬場建設にあたり、嫌忌施設としての性格上、隣接民有地の買収を計画し、殆んどの隣接民有地は適正時価で買収が行なわれたが、野口安二氏(疎甲第五号証参照)所有地(疎乙第一号証の五の向うがその所有地)のみは買収価格の折合いがつかなかつた。問題の「なぐりこみ」というのは、昭和四六年一一月三日、野口安二氏の息子武氏が飲酒の上ブルドーザーを運転して火葬場内に闖入し、門柱その他を倒壊させ約八〇万円の損害を与えた事件であり、同人が損害賠償することにより事件の解決をみている。

従つて、右事件は関係者の間は専ら買収交渉のもつれであると意識されており、申請人ら主張のごとき悪臭被害の結果ではない。

事実、同火葬場より約五〇メートルの至近距離に織物工場(疎乙第一号証の四の家が該当の工場)があるが、同所居住者からは悪臭の非難はないし、他からも悪臭の抗議を受けたこともないと市関係者は語つている。

(四) 同項の③サイクロンの問題点については、サイクロンの効率の変化が防じんの点にいかなる影響を及ぼすのか明確にされたい。

(五) 同項の④に関して、

和泉市は、本件火葬場の業務に従事する職員として、木下武夫(大正一一年七月二九日生、昭和三八年七月一日採用)、田上辰男(大正七年一二月六日生、昭和四六年四月一日採用)、および竹村行年(大正八年一月一六日生、昭和四六年四月一六日採用)を予定、用意しており、既に三人共観音寺町の市立新開斎場で従事している。さらに、木下武夫については昭和四六年九月一一日財団法人日本環境衛生センターの火葬場管理者講習会に出席させ、その技術を修得済である。

また、人員の点については火葬炉一〇基の三名の職員で十分足りており、火葬炉七基の本件火葬場に三名はむしろ多い位である。機械の操作についても殆んど自動化され、最初の点火はボタン式で素人にもでき、その他全てに亘つて三ケ月もあれば十分習熟できる。

従つて、和泉市が右に関する配慮を欠いているとは、何ら事実に基づかない不当ないいがかりにすぎない。

(六) 同項の⑤に関して、

申請人らが農民が農作業もできないとの例としてあげる野口安二氏の件は全く別の理由によるものであること前述のとおりである。

また、死体焼却の度に黒煙がモクモクあがるとの主張は事実に反する。せいぜい焼却当初の二〜三分かすかな煙が出るだけで以後は全く出ない。(疎乙第一六号証)。

また、同火葬場が「三交替制で昼夜の別なく作業を行なつている」とは全く事実に反し、申請人らの事実調査の不備を物語るものである。更に、「炉や、機械の構造についてすら理解していない」とは何を根拠に主張されるのか明らかでなく、右の炉や機械はその構造について作業に必要な理解はそれ程の専門知識を要しない。

流木火葬場に隣接して野口安二氏の作業場があり、約五〇メートル離れて織物工場があること前述のとおりである。

四、仮処分の必要性に関する反論

本件火葬場設置に至る手続、その環境保全のための諸装置等よりすれば、右操業により申請人らの生活が破壊される公害の発生する余地が全くなく、従つて、申請人らには本件仮処分によつて保全さるべき権利が存しないことは明らかであるが、たとえ、右権利が認められるとしても、本件仮処分が認容されんか、被申請人和泉市の蒙る損害は極めて甚大であり、それが、ひいては、公共の福祉に重大な影響を及ぼす。

すなわち、和泉市の現行の市立新開火葬場ではその処理能力が限界に達しており、また、同火葬場の使用期限も既に昭和三八年には到来しており、地元観音寺町からその約束の履行方を強く要望されていたこと、旧八坂町(現、幸地区)および旧信太村(現、信太地区)の住民よりも新火葬場設置について強い要望があつたこと、本件火葬場には、総工費約一億六千万円がかけられ昭和四六年一〇月中旬建設に着工し昭和四七年二月末頃には完成の見込みであり、現在では既に炉も設置され、あとは外装を残すのみで殆んど九〇パーセント以上完成しており、操業も同年三月中旬と間近かであること等を考え併せると、本件申請による工事差止請求ならびに使用操業中止請求は、殆んど既存の公共施設の操業停止請求と同等の効果をもち、もし、本件申請が認容されんか、被申請人和泉市の蒙る損害は甚大であり、それは公共の福祉にも重大な影響を及ぼすこと明らかである。

それにひきかえ、申請人らの蒙る公害のおそれは、極めて抽象的なものにすぎず、右被申請人の蒙る具体的かつ重大な損害と比較すれば、本件仮処分はその必要性を欠くこと明らかである。

第四、まとめ

以上、本件申請は不適法であるからただちに却下されるべきであり、仮に然からずとするも、被保全権利もしくは必要性を欠くからただちに棄却されるべきである。

以上

仮処分命令申請書

申請の理由

第一 被申請人による火葬場建設について

(1) 被申請人和泉市(以下和泉市という)は昭和四六年三月三〇日付にて別紙物件目録記載の火葬場(以下本件火葬場という)につき、位置決定の告示をなした上代町を中心とする住民の猛烈な建設反対の運動にもかかわらず、和泉市は昭和四六年秋頃より本件火葬場の建築工事に着工した。

現在工事は着々と進み昭和四七年二月中旬から下旬にかけて完成し、和泉市は、三月より操業を開始する予定である。

(2) 申請人等は和泉市上代町の住民でありいずれも町会の役員をしており上代町を代表する者である。和泉市上代町は本件火葬場の至近距離に位置する町であり和泉市の本件火葬場建設計画が明らかにされるや以下に述べる本件火葬場により生活環境が破壊されることや和泉市の住民の意思を無視し、あるいは詐術的手段を使つての不当な建設強行に反対して町民あげて本件火葬場建設反対運動を和泉市に対し強力に展開してきたものである。

第二 本件火葬場建設及び操業は違法不当に住民生活環境を破壊するものである。

(一) 本件火葬場の位置の違法不当性について。

① 「墓地埋葬等に関する法律」第一条に違反する。

「墓地埋葬等に関する法律」第一条によれば「この法律は墓地、納骨堂、又は火葬場の管理及び埋葬等が国民の宗教感情に適合し且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする」と規程され「大阪府墓地埋葬等に関する法律施行細則」第四条によれば火葬場の新設拡張を許可しないことのある場合として

国道、府県道、鉄道、軌道、河川、公園、学校、病院、人家及び飲用に供する井戸から三〇〇メートル以内

にあることを規程している。

これらの規程は第一に火葬場建設につき住民の宗教感情を十分に考慮しなければならないこと。

第二に伝染病の発生、その他の公衆衛生上不測の事態が発生しないよう十分に考慮しなければならないこと。特に最近公害問題が社会的に大問題になつている時に大気汚染や悪臭等の「公害」が発生しないように十分に配慮しなければならないこと等を特に定めたものである。

上水水源池の真中

ところが本件火葬場は和泉市小野町一五番地内に建築されておりその位置は大野池の真中に突出した半島の先端である。大野池は和泉市高石市泉大津市三市にまたがる上水の水源池である。十数万市民の依存している上水水源池のど真中に火葬場を作ることにより、水汚染の危険が生じ、前述した法律の規程に反し、不当なものであることは明らかである。

申請人等の住家のすぐそば

さらに本件火葬場は申請人等の住家より、わずか二〇〇〜三〇〇メートルの至近距離にある。これは住民の宗教感情を全く無視したものであるばかりか、大気汚染や悪臭等の「公害」による環境破壊を何ら考慮せず前述の法律規則に反することは明らかであり不当である。

広大な団地のすぐそば

しかも本件火葬場の二〇〇メートル程西側には現在広大な日本住宅公団による広大な鶴山台団地の建設が急ピッチで進められている。すでに入居者もいる。

本件火葬場はこの団地住民よりすれば「団地の中で死体を焼く」ようなものである。まるで「死体焼場」を「ゴミ焼場」と同じように考えているのではないかと疑われるほど和泉市は不当なことをしているのである。

② 上代町にいやなものを集中する――平等の原則に反し不当――

上代町の北端には市営のじんあい焼却場がすでに建築され稼動中である。申請人等上代町民はこのじんあい焼却場を建築する時にも当局者から何の被害も出ないといわれて泣寝入りをした。しかし実際には、けむりや粉じんに日夜なやまされ続けてきた。かかる上代町にさらに火葬場を建築することは平等の原則に反するものであり不当である。

(二) 火葬場建設手続の違法不当性

① 住民にひたかくしにして既成事実をつくる。

和泉市の本件火葬場の位置決定は都市計画法にもとづいている。都市計画法のたてまえは都市計画が住民に重大な影響を及ぼすものであるところから「公聴会」「関係書類縦覧」の制度を定める等して住民の意向を十分に反映させるたてまえになつている。ところが和泉市は申請人等住民にはひたかくしにしたままで計画を着々と進めてきた。

即ち本件火葬場用地は、もと国有地であつたものを本件火葬場の建設用地とするために国より交換により昭和四六年三月取得したものである。

又、本件土地を火葬場用地として使用できるよう住居専用地域を住街地調整区域に変更する等の操作を行つている。

これらの措置が住民に対し本件火葬場建設計画を明らかにする前に行われているということは、住民の意向がどうであろうと、又いかなる不当性があろうと本件位置に火葬場を作ることは和泉市にとつて不動の計画になつていたのである。

② 住民の反対意思を無視して強行欺罔手段をも使つて和泉市は前述の如く既成事実を作つた後、昭和四五年四月申請人等上代町に本件火葬場建設計画を明らかにし、協力を求めてきた。

しかし申請人等上代町住民は前述したように本件火葬場の位置があらゆる点から考えて違法不当なものであるばかりか後述するように具体的に「公害」被害の発生するおそれが多分にあるために本件火葬場建設に反対し、いく度ともなく和泉市に対し陳情をくりかえしたが、和泉市は全く聞き入れようとせず、昭和四六年二月には大阪府知事に対し、火葬場都市計画決定について承認を求める申請をなした。

和泉市は大阪府知事に対し住民の反対の意思が弱いと詐言をろうして府知事の承認をもらつた。

さらに「公聴会」も開かず、反対運動がますますたかまるにもかかわらず、本件火葬場の建築を強行して今日に至つているのであり、その地方自治体としてあるまじき非民主性は徹底的に追求されなければならない。

(三) 本件火葬場建設操業により住民生活環境は破壊される。

① 本件火葬場には、火葬炉七基及び汚物焼却炉一機が据えつけられて重油により死体及び汚物を焼却処理するものである。

従つて、重油燃焼にともなう大気汚染、人体、汚物、燃焼にともなう悪臭等の被害が発生する。

② 悪臭被害

人体、汚物の燃焼にともなう悪臭はたえがたいものがある。

和泉市の設計図によれば、脱臭装置として再燃焼方式をとることにより脱臭率は九四〜九九%であると説明されている。

しかし右脱臭装置だけでは不備であり悪臭被害があることは確実である。

即ち、本件火葬場の炉体中の断熱扉の昇降装置が不完全で間隙が多く、炉内と炉外の遮断が不完全である。

着火後の燃焼初期には燃焼温度も低く、不完全燃焼がおこる、そのため、煙突による自然排気もおこらず、発生したガスは断熱扉の間隙から放出され、炉室内に充満する、このような不完全燃焼ガスの放出充満は、七基の各炉と中央煙道を結ぶ、分岐煙道に設けられた遮断板を挿入する間隙からも発生する。

本件火葬場設計図によれば、炉室内の換気は壁面換気扉により直接外気と交換されるようになつている、そのため炉室内に充満したガスは直接周辺に放出され付近住民に悪臭被害を及ぼすことになる。

かかる重大な欠陥を有しているのである。

岸和田市の本件火葬場と同じ構造である「流木火葬場」の付近住民が悪臭被害に怒つて、火葬場になぐりこんだのもかかる重大な欠陥による悪臭被害が生じたことが原因である。

③ 防じん装置の問題点

和泉市の設計図によれば、防じん装置として、サイクロンを設置することになり、脱煙率は、九四〜九九%であると説明されている。

しかしこの防じん装置にも重大な問題点がある。即ち、サイクロンの性能は、流入ガス量集塵室からの換気あるいは送気の空気量、含塵量により大きく効率が変化する、焼却炉は総計七基あるが、稼働している炉の数に応じてサイクロンの効率が変化する。特に人体焼却のように、二時間たらずの間、欠燃焼においては、燃焼温度、排出ガス量の変化が大きくこの傾向は助長される。

④ しかも問題となるのは、炉体、防臭、防じん装置を正常に且つ最大の効率で運転するためには、充分の人員の確保、装置技術者の養成が必要である。しかし和泉市はかかる配慮を全くしていない。

⑤ 他市における同構造の火葬場による被害の実際について

岸和田市流木火葬場の例

岸和田市は昭和四六年秋より本件火葬場と全く同構造の火葬場を建築し、操業を開始した。

流木火葬場の場合には悪臭被害はひどく、近くの農民は農作業もできないほどである。又煙突からは死体焼却のたびに黒煙がモクモクとあがつており脱煙率九四〜九九%であるとはとうていいえない。

さらに七基の火葬場にわずか職員が三人いるのみで、三交替制で昼夜の別なく作業を行つているだけであり。しかも炉や、機械の構造についてすら理解していない。従つて不完全な装置である上に、十分に稼動させることもできない状態である。

流木火葬場は周囲には人家はなく山奥である。本件火葬場の位置が前述のような非常識な位置にあることを考えるとその被害はじん大であることが予想される。

四条畷市飯盛霊園の例

飯盛霊園の場合、死体焼却にともない黒煙がモクモクと出ている。

しかし、ここの場合も人家からはるかはなれた山奥であり現実の被害は出ないように配慮されている。

第三 仮処分の必要性

以上のべたように本件火葬場建設操業により申請人ら住民は重大な生活破壊の被害を受けることになる。

かかる和泉市の火葬場建設及び操業は住民の生活環境破壊の限度において許容の範囲をこえるものである。

よつて申請人らは人格権にもとづき不法行為差止請求あるいは申請人らは、上代町に土地、家屋を所有しているものであり、右所有権にもとづき妨害予防請求の本裁判を提起すべく準備中であるが、和泉市は建築を二月中には完了し三月より操業に入る予定であるので、本訴をまつていては現在の困難を救うことができないので本申立に及んだものである。

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